「理学療法士」と聞くと、皆さんはどんなお仕事をイメージされますか?病院でリハビリテーションを指導してくれる人、ケガや病気で体の動きが不自由になった人を助ける専門家、スポーツ選手のコンディショニングをサポートする人…そんな、誰かの役に立ち、社会に貢献できる素晴らしいお仕事という印象をお持ちの方が多いかもしれませんね。医療系の国家資格ですし、安定していて将来性もあるように感じるかもしれません。
でも、インターネットで「理学療法士」と検索してみると、「理学療法士 やめとけ」「理学療法士 後悔」「理学療法士 給料安い」なんて、ちょっと気になる言葉も一緒に表示されることがあるんです。「え、そんなに大変なの?やりがいのある仕事だと思っていたのに…」と、不安に感じてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。一体どうして、そんな声があがってしまうのでしょう?
この記事では、理学療法士という職業について、なぜ一部で「やめとけ」と言われてしまうのか、どんな点に注意しないと資格取得後やキャリアの途中で後悔につながってしまうのか、その理由を一つひとつ丁寧に、そして皆さんに分かりやすくご説明していきたいと思います。もちろん、理学療法士には素晴らしい魅力や深いやりがいがたくさんあります。
でも、今回はあえて「やめとけ」と言われる側面から、皆さんが将来の大切な職業選択をする際に、後で「こんなはずじゃなかった…」と肩を落とすことがないよう、お手伝いができれば嬉しいです。人の身体や人生に深く関わるお仕事ですから、じっくりと考えていきましょうね。
この記事でお伝えしたいこと
- 理学療法士の基本的な仕事内容、資格取得までの道のり、そして一般的な魅力
- なぜ理学療法士が「やめとけ」と言われるのか、その具体的な6つの理由
- 理学療法士を目指す上で知っておくべき潜在的なリスクや厳しい現実
- それでも理学療法士を目指したいと考えた場合に、後悔を避け、賢明な判断をするための注意点と心構え
- ご自身の適性や価値観に、理学療法士という道が本当に合っているのかを見極めるためのヒント
理学療法士とは?その概要と魅力
まずはじめに、「理学療法士って、具体的にどんなことをするの?」「どうやったらなれるの?」という方のために、理学療法士の基本的なところからご説明しますね。その専門性や社会的な役割、そして資格取得の大変さを知ることは、今回のテーマを理解する上でとても大切なんです。
理学療法士の仕事内容
理学療法士(Physical Therapist、略してPTとも呼ばれます)は、病気、けが、高齢、障害などによって身体機能が低下した方々に対して、運動療法や物理療法(温熱、電気刺激、マッサージなど)といった手段を用いて、座る、立つ、歩くといった基本的な動作能力の回復や維持、そして悪化の予防を支援するリハビリテーションの専門家です。「理学療法士及び作業療法士法」という法律に基づく国家資格なんですよ。
理学療法士の主な目的は、対象となる方々が、できる限り自立した日常生活を送れるように、そしてより質の高い生活を送れるように支援することです。そのために、一人ひとりの状態を正確に評価し、その方に合った理学療法プログラムを計画・実行していきます。
活躍の場は非常に幅広く、主に以下のような場所があります。
- 医療機関:病院(総合病院、リハビリテーション専門病院、大学病院など)、クリニック(整形外科、脳神経外科など)。急性期(病気やけがの直後)、回復期(状態が安定し、本格的なリハビリを行う時期)、維持期(生活期とも呼ばれ、在宅復帰後や慢性的な状態)の各段階で関わります。
- 介護保険関連施設:介護老人保健施設(老健)、デイケア(通所リハビリテーション)、訪問リハビリテーション事業所など。高齢者の方々の機能維持や在宅生活の支援を行います。
- 福祉施設:障害者支援施設、特別支援学校など。障害のある方々や子どもたちの発達支援や機能訓練に関わります。
- スポーツ分野:プロスポーツチーム、実業団チーム、フィットネスクラブなど。アスリートのコンディショニング、ケガの予防やリハビリ、パフォーマンス向上をサポートします。
- 教育・研究機関:理学療法士の養成校(大学や専門学校)での教育や、リハビリテーションに関する研究など。
- その他:行政機関(保健所など)での地域保健活動、企業の健康管理部門、海外での活動など、活躍のフィールドは広がりつつあります。

理学療法士になるには
理学療法士になるためには、高校卒業後、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定した理学療法士養成校(大学、短期大学、専門学校など、通常3年以上)で専門知識と技術を学び、卒業(または卒業見込み)することで国家試験の受験資格を得て、その国家試験に合格する必要があります。
養成校では、解剖学、生理学、運動学、病理学といった基礎医学の知識から、整形外科学、神経内科学、内科学といった臨床医学、そして理学療法の評価法や治療法、リハビリテーション概論といった専門科目を幅広く学びます。
座学だけでなく、実技演習や、実際の医療機関などで行う臨床実習も非常に重要なカリキュラムです。この臨床実習は、数週間から数ヶ月にわたり、学生にとっては大変ながらも実践力を養う貴重な機会となります。
理学療法士国家試験は、年に1回(通常2月)実施され、筆記試験(一般問題と実地問題)で行われます。厚生労働省の発表によると、第59回理学療法士国家試験(令和6年実施)の合格率は89.2%でした(第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について)。
合格率だけ見ると比較的高く感じるかもしれませんが、これは養成校での厳しいカリキュラムをクリアし、卒業試験にも合格した学生たちが受験した上での数字なので、決して簡単な試験というわけではありません。養成校での勉強や実習は、相当な努力と時間が必要なんですよ。
理学療法士の一般的な魅力
そんな理学療法士という職業には、どのような魅力があるのでしょうか。一般的に言われるメリットをいくつか挙げてみますね。
- 人の役に立てる、感謝される仕事:患者さんの機能回復を直接サポートし、「ありがとう」という言葉をいただける機会が多く、大きなやりがいを感じられます。
- 専門性が高く、社会的に必要とされる:高齢化が進む現代社会において、リハビリテーションの専門家である理学療法士の需要はますます高まっています。
- 国家資格であり、比較的安定している:資格があれば、全国どこでも働く場所を見つけやすいと言われています。
- 多様な分野で活躍できる可能性:医療機関だけでなく、介護、福祉、スポーツ、教育・研究など、幅広いフィールドで専門性を活かせます。
- 常に学び続けられる、自己成長できる:医療やリハビリテーションの知識・技術は日々進歩するため、常に新しいことを学び、スキルアップしていく意欲が求められます。それが自己成長にも繋がります。
これらの魅力に惹かれて、多くの方が理学療法士を目指すんですね。しかし、その理想の裏には、厳しい現実や見過ごせない課題も隠れているんです。
理学療法士はやめとけと言われる6つの深刻な理由
さて、ここからが本題です。理学療法士の概要と魅力をご理解いただいたところで、なぜ一部で「理学療法士はやめとけ」という、ちょっと心配になるような声があがってしまうのか、その具体的な理由を6つに絞って、詳しくご説明していきたいと思います。
これらの理由を知っておくことは、皆さんが理学療法士という道を検討する上で、非常に重要になってくるはずです。
【理由①】給料が思ったほど上がらず、将来性に不安を感じやすいから
「医療系の国家資格だから、きっと給料も高いんだろうな」そんなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら、理学療法士の給与水準は、その専門性や仕事の大変さに見合っているとは言い難い、と感じる人が少なくないのが現実です。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士を合わせた職種の平均年収(きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額)は、約430万円となっています。
もちろん、これはあくまで平均値であり、勤務先の種類(病院、クリニック、介護施設など)、規模、地域、経験年数、役職などによって大きく異なります。新卒の初任給は月額20万円~25万円程度が一般的で、日本の全産業の平均年収と比較して、特別に高いわけではありません。
問題なのは、経験を積んでも給料がなかなか上がりにくいという点です。理学療法士の主な収入源は、医療保険や介護保険制度に基づく診療報酬(リハビリテーションを行った際に得られる報酬)ですが、この報酬単価は国によって定められており、個人の努力だけでは大きく変えることができません。
そのため、勤続年数が長くなっても、大幅な昇給が見込めず、給与が頭打ちになってしまうケースが多いのです。管理職(リハビリテーション科の科長など)になれば手当がつくこともありますが、そのポストは限られています。
さらに、近年は理学療法士の養成校が増加し、資格取得者数も急増しています。日本理学療法士協会の統計によると、2023年3月末時点での会員数は約13万8千人を超え、毎年多くの新しい理学療法士が誕生しています(リハビリ専門職最新情報 – PT-OT-ST.NET)。
需要があるとはいえ、供給過多になれば、一人当たりの仕事量が減ったり、待遇が悪化したりする可能性も懸念されています。「将来、今の給料が維持できるのだろうか…」と不安を感じる理学療法士も少なくないようです。
「理学療法士になって10年目だけど、給料は新人の頃とほとんど変わらない。毎日患者さんのために頑張ってるのに、このままじゃ生活が苦しい。もっと評価されるべき仕事だと思うんだけど…。」(現役理学療法士のSNS投稿より)
「養成校が増えすぎて、理学療法士が飽和状態だって聞く。せっかく国家資格取っても、将来安泰とは言えないのかなって不安になるよ。」
「人の役に立ちたい」という高い志を持って理学療法士になったものの、日々の生活や将来設計を考えると、この給与水準では厳しいと感じてしまう方がいるのも無理はないのかもしれません。経済的な安定や高い収入を強く求める方にとっては、慎重な検討が必要な職業と言えるでしょう。
【理由②】体力的な負担が想像以上に大きく、腰痛などに悩まされやすいから
理学療法士の仕事は、見た目以上に体力勝負な側面があります。患者さんの体を支えたり、動かしたり、一緒に運動したりと、常に体を動かしていることが多いからです。
特に、以下のような場面では、大きな体力が必要とされます。
- 移乗介助:ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへなど、患者さんが安全に移動できるように介助する際、患者さんの体重を支える力が必要です。特に、体重の重い方や、麻痺などで自分でほとんど動けない方の介助は大変です。
- 歩行訓練:不安定な患者さんの歩行をサポートする際、転倒しないように常に気を配りながら、時には自分の体で支えなければなりません。
- 関節可動域訓練:硬くなった関節を動かす際、ある程度の力が必要になることがあります。
- 長時間の立ち仕事:一日のほとんどを立って、あるいは動き回って過ごすため、足腰への負担が大きいです。
こうした業務を毎日続けていると、慢性的な疲労感や、腰痛、肩こり、膝の痛みなどに悩まされる理学療法士は少なくありません。
特に腰痛は職業病とも言えるほどで、若いうちは体力でカバーできても、年齢を重ねるにつれて体にガタが来やすくなります。「人を助ける仕事なのに、自分の体がボロボロになってしまった…」というのでは、本末転倒ですよね。

もちろん、正しいボディメカニクス(体の効率的な使い方)を学び、実践することで、体への負担を軽減する工夫はできます。
また、日頃から自身の体力づくりやストレッチなどのセルフケアを怠らないことも重要です。しかし、それでも日々の業務で蓄積される疲労や負担は決して小さくありません。
「理学療法士の仕事、やりがいはあるけど、正直、体がきつい。毎日何人もの患者さんの移乗介助してると、夕方にはもうヘトヘト。腰も慢性的に痛いし、この仕事をいつまで続けられるか不安だよ。」(病院勤務の理学療法士の声)
「スポーツ整形外科で働いてるけど、アスリートのリハビリは結構ハード。自分も体力ないとついていけない。若い頃は楽しかったけど、だんだんしんどくなってきた。」
もし、あなたが体力にあまり自信がない方や、元々腰痛持ちであるといった場合は、理学療法士という仕事の体力的な側面を十分に理解し、本当に自分に務まるのかをよく考える必要があります。
「人の役に立ちたい」という気持ちだけでは乗り越えられない、フィジカルな厳しさがあることを覚悟しておきましょう。
【理由③】精神的なストレスが大きく、燃え尽き症候群になるリスクも
理学療法士の仕事は、体力的な負担だけでなく、精神的なストレスも非常に大きいと言われています。人の身体や生活に深く関わり、時には患者さんの人生を左右するような場面にも立ち会うため、常に高い緊張感と責任感が求められるからです。
具体的には、以下のような点で精神的な負担を感じることがあります。
- 患者さんの期待に応えられないことへの無力感:一生懸命リハビリに取り組んでも、必ずしも全ての患者さんが期待通りに回復するわけではありません。思うように結果が出ない時、「自分の技術が足りないのではないか」「もっと何かできることがあったのではないか」と自分を責めてしまうこともあります。
- 患者さんやご家族とのコミュニケーションの難しさ:患者さんの中には、リハビリに対して意欲的でない方、不安や不満を抱えている方、認知症などでコミュニケーションが難しい方もいらっしゃいます。また、ご家族の要望と患者さん本人の希望が異なる場合など、調整に苦慮することもあります。
- 死や重い後遺症と向き合う辛さ:特に急性期病院や終末期医療に関わる場合、患者さんの死に直面したり、重い後遺症を抱えて絶望している患者さんと接したりする中で、精神的に大きなショックを受けることがあります。
- 多職種連携の難しさ:医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなど、多くの専門職とチームで連携して患者さんをサポートしますが、時には意見の対立や連携不足からストレスを感じることもあります。
- 膨大な事務作業と記録業務:リハビリの計画書や報告書、診療記録など、作成しなければならない書類が非常に多く、日々の業務時間外に持ち帰って作業することも少なくありません。これがサービス残業の原因にもなりがちです。
- 常に勉強し続けなければならないプレッシャー:医療やリハビリテーションの知識・技術は日進月歩です。患者さんにより良いリハビリを提供するためには、休日や業務時間外にも学会や研修会に参加したり、文献を読んだりして、常に新しい情報をアップデートし続ける必要があります。この自己研鑽へのプレッシャーも、人によっては負担に感じるでしょう。
こうした様々なストレス要因が積み重なると、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」に陥ってしまう理学療法士もいます。「あんなに情熱を持って始めた仕事なのに、もう何もやる気が起きない…」「患者さんと接するのが辛い…」と感じるようになってしまうのです。これは非常に悲しいことですよね。
「患者さんの『ありがとう』がやりがいだけど、それ以上に辛いことの方が多くて、最近、仕事に行くのが憂鬱。もっと自分にできることがあるはずなのに、何もできない無力感に押しつぶされそうになる。」
「毎日、患者さんの人生と向き合って、感情移入しすぎてしまう自分がいる。家に帰っても仕事のことが頭から離れなくて、全然リフレッシュできない。このままだと、いつか心が壊れちゃうんじゃないかって怖い。」(理学療法士の匿名ブログより)
高い共感力や責任感を持っている方ほど、こうした精神的な負担を抱え込みやすい傾向があるかもしれません。ストレスを上手にコントロールする術や、オンとオフを切り替える工夫、そして時には「割り切る」ことも必要になってくるでしょう。メンタルヘルスの維持が、この仕事を長く続けていく上での大きな課題の一つと言えます。
【理由④】キャリアアップの道が限られており、将来の展望が見えにくいことも
理学療法士として働き始めた後、どのようなキャリアパスを描けるのか、という点も気になるところですよね。しかし、残念ながら、理学療法士のキャリアアップの道は、他の専門職と比較して限られていると感じる人が少なくないようです。
多くの理学療法士は、病院や介護施設などの組織に所属して働きますが、その中での昇進の道は、一般的に以下のようになります。
- 一般スタッフ:まずは一人の理学療法士として、臨床業務に専念します。
- 主任・係長クラス:数年の経験を積み、後輩の指導やチームリーダー的な役割を担うようになります。
- 科長・部長クラス(リハビリテーション科の管理職):リハビリテーション部門全体の運営管理やスタッフのマネジメント、他部署との調整など、より広範な業務を担当します。
しかし、科長や部長といった管理職のポストは、一つの施設に数名程度しかなく、非常に狭き門です。多くの理学療法士は、長年一般スタッフや主任クラスのまま働き続けることになります。もちろん、臨床家として専門性を深め、患者さんから信頼される存在になることは素晴らしいことですが、役職や給与面での明確なステップアップが見えにくいと、モチベーションを維持するのが難しく感じる人もいるでしょう。
また、理学療法士の業務範囲は法律で定められており、医師のように診断や投薬、手術といった医療行為を行うことはできません。そのため、「もっと直接的に患者さんの治療に関わりたい」「自分の判断で医療を提供したい」と思っても、現在の制度の中では限界があります。
もちろん、近年では、理学療法士が活躍できるフィールドも広がりつつあります。
- 認定理学療法士・専門理学療法士:特定の専門分野(例えば、脳卒中、運動器、スポーツ、呼吸器など)において、より高度な知識と技術を持つことを示す資格制度があります。これらを取得することで、専門家としての評価を高めることができます。
- 大学院進学・研究職:修士号や博士号を取得し、大学や研究機関で教育や研究に携わる道もあります。
- 独立開業:理学療法士が単独で開業することは現在の法律では認められていませんが、整体院やコンディショニングジムといった形で、あるいは他の資格(柔道整復師や鍼灸師など)と組み合わせて、自ら事業を立ち上げる人もいます。ただし、これは医療保険の適用外となることが多く、経営手腕も問われます。
- 他分野へのキャリアチェンジ:医療機器メーカーや福祉用具関連企業、ヘルスケア系IT企業など、理学療法士の知識や経験を活かせる一般企業に転職する人もいます。
しかし、これらの道も、誰もが簡単に進めるわけではありませんし、必ずしも安定や高収入が保証されているわけではありません。
「理学療法士になったはいいけれど、この先どうやってキャリアを積んでいけばいいんだろう…」と、将来の展望が見えにくく、不安を感じてしまうケースもあるようです。
「現状維持で満足」という方であれば問題ないかもしれませんが、常に新しい目標を持って成長し続けたい、キャリアの階段を上っていきたい、と考える意欲の高い方にとっては、理学療法士のキャリアパスは少し物足りなく感じるかもしれませんね。資格取得後のキャリアプランを具体的に描けるかどうかが重要です。
【理由⑤】養成校の増加による質の低下や就職難への懸念
先にも少し触れましたが、近年、理学療法士の養成校(大学や専門学校)の数が急速に増加し、それに伴い、毎年多くの新しい理学療法士が誕生している状況は、業界全体の大きな課題として認識されています。
需要があるから供給が増えるのは自然な流れかもしれませんが、この急激な増加にはいくつかの懸念点が指摘されています。
- 教育の質の低下:養成校が乱立することで、教員の数や質が追いつかず、学生への教育レベルが十分に担保されないのではないか、という懸念があります。特に、臨床実習先の確保が難しくなり、実習の質が低下する可能性も指摘されています。質の低い教育を受けた理学療法士が増えれば、それは患者さんにとっても不幸なことです。
- 就職難・待遇悪化の可能性:理学療法士の数が増えすぎると、需要と供給のバランスが崩れ、就職が難しくなったり、給与や労働条件といった待遇が悪化したりするのではないか、という懸念があります。「国家資格だから安泰」とは言えなくなる時代が来るかもしれません。実際、一部の地域や分野では、既に求人が減ってきたり、給与水準が低下傾向にあったりするという声も聞かれます。
- 専門性の希薄化:理学療法士の数が増えることで、一人ひとりの専門性が十分に発揮されにくくなったり、「誰でもできる仕事」というイメージが広まってしまったりするリスクも考えられます。
日本理学療法士協会も、こうした状況に対して警鐘を鳴らし、教育の質の確保や、理学療法士の専門性を社会に正しく理解してもらうための活動などに取り組んでいます。
しかし、養成校の設立認可は国が行うものであり、協会だけでコントロールできる問題ではありません。
これから理学療法士を目指す方にとっては、「自分が卒業する頃には、どんな就職状況になっているのだろうか」「質の高い教育を受けられる養成校を選べるだろうか」といった不安は、決して無視できないものでしょう。
単に国家資格を取得することだけを目標にするのではなく、その先のキャリアを見据えて、質の高い教育を受け、確かな実力を身につけることが、これまで以上に重要になってくると言えます。
「理学療法士の学校、昔はもっと少なくて難しかったって聞くけど、今はどこにでもある感じだよね。正直、卒業してもちゃんと就職できるのか、給料もらえるのか不安だよ。」(理学療法士を目指す学生さんの声)
「手に職をつけたい」という思いで理学療法士を目指す方は多いと思いますが、その「職」の価値が将来的にどうなっていくのか、マクロな視点も持って情報収集し、冷静に判断する必要があるかもしれませんね。
【理由⑥】常に学び続ける必要があり、勉強熱心でないと取り残されるから
医療の世界は日進月歩です。新しい治療法やリハビリテーション技術、医学的な知見が次々と生まれてきます。理学療法士も、医療専門職の一員として、常に最新の知識や技術を学び続け、自分自身をアップデートしていく努力が求められます。
養成校を卒業し、国家試験に合格したからといって、それで勉強が終わるわけではありません。むしろ、そこからが本当の学びのスタートだと言えるでしょう。
患者さん一人ひとりの状態は異なり、教科書通りにいかないことばかりです。目の前の患者さんにとって最善のリハビリテーションを提供するためには、
- 学会や研修会への積極的な参加:休日や業務時間外を利用して、最新の研究発表を聞いたり、新しい手技を学んだりする必要があります。参加費や交通費も自己負担となることが多いです。
- 専門書や学術論文の購読:国内外の文献を読み込み、知識を深めることが求められます。英語の論文を読む必要がある場合も。
- 職場内での勉強会や症例検討:同僚や先輩と意見交換をしたり、難しい症例について議論したりする中で、新たな気づきや学びを得ます。
- 認定理学療法士・専門理学療法士の取得:特定の専門分野でのスキルアップを目指し、資格取得のための勉強や研修に取り組む。
といった、継続的な自己研鑽が不可欠です。この「学び続ける姿勢」がないと、知識や技術はすぐに陳腐化してしまい、質の高いリハビリテーションを提供できなくなってしまいます。それは、患者さんにとっても、そして理学療法士自身にとっても不幸なことです。
「仕事が終わったら、あとは自分の時間」と割り切りたい方や、勉強があまり好きではない方にとっては、この絶え間ない学習への要求は、大きな負担と感じるかもしれません。「資格を取ったらずっと安泰」というわけにはいかないのです。
「理学療法士って、なってからも本当に勉強が大変。週末はほとんど学会か研修会で潰れるし、平日の夜も文献読んだりレポート書いたり…。好きじゃないとやってられない仕事だと思う。」
「同期で入ったけど、全然勉強しないで昔ながらのやり方ばっかりやってる人、やっぱり患者さんの改善も遅い気がする。自分もそうならないように、常に新しいことを学んでいかないとって思うよ。」(X(旧Twitter)の理学療法士と思われる投稿より)
もちろん、この「学び続ける」ということを、知的好奇心を満たし、自己成長に繋がる喜びと感じられる方にとっては、理学療法士は非常にやりがいのある仕事となるでしょう。
しかし、受動的な姿勢でいたり、向上心を持ち続けられなかったりすると、だんだんと仕事が辛くなってしまう可能性があります。ご自身の学習意欲や知的好奇心の度合いも、適性を考える上での重要なポイントになりますね。
以上が、「理学療法士はやめとけ」と言われることがある主な6つの理由です。どれも、理学療法士という仕事の現実的な側面を映し出しており、華やかなイメージだけでは見えてこない大切なポイントばかりですね。
それでも理学療法士を目指すなら?後悔しないための賢い選択と心構え
ここまで理学療法士の厳しい側面や、「やめとけ」と言われる理由について詳しくお話ししてきましたが、「うーん、やっぱり理学療法士になるのは大変そうだから、諦めた方がいいのかな…」と、気持ちが揺らいでしまった方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、お待ちください! 理学療法士という仕事が持つ、人を助け、支え、そして共に成長できるという素晴らしい魅力は、決して色褪せるものではありません。困難な側面があるからこそ、それを乗り越えた先には、大きな達成感と、誰かの人生に深く関われるというかけがえのない喜びが待っているはずです。
大切なのは、理学療法士という仕事の「理想」と「現実」の両面を正しく理解し、その上で、ご自身の価値観や目標、そして覚悟と照らし合わせて、本当に自分にとって進むべき道なのかを真剣に考えることです。
そして、もし「それでも私は理学療法士になりたい!」という強い意志をお持ちなのであれば、後悔しないために、いくつかの重要な心構えと準備が必要です。ここでは、そのためのヒントをいくつかご紹介しますね。
【ポイント①】なぜ理学療法士になりたいのか、その「原点」と「情熱」を常に持ち続ける
まず何よりも大切なのは、「なぜ自分は理学療法士になりたいのか?」その最初の動機や情熱を、どんな困難に直面しても見失わないくらい、強く、そして深く自分の中に持ち続けることです。先にお話ししたように、理学療法士の仕事は、体力的にも精神的にも、そして時には経済的にも厳しい側面があります。そんな時、自分を支え、再び前を向かせてくれるのは、「それでも私は、人の役に立ちたいんだ!」「誰かの笑顔を取り戻したいんだ!」という、その仕事に対する純粋な思いと、揺るぎない使命感なんです。
- 「過去に自分がケガをして、理学療法士さんにお世話になり、その姿に憧れた」
- 「家族が病気でリハビリを受けているのを見て、自分も医療の力で人を支えたいと思った」
- 「身体の仕組みや動きに興味があり、専門知識を活かして人の健康に貢献したい」
- 「スポーツが好きで、アスリートのパフォーマンス向上やケガからの復帰をサポートしたい」
きっかけや理由は人それぞれで良いと思います。しかし、それが「なんとなく安定してそうだから」「資格があれば将来安泰そうだから」といった表面的なものであったり、他者からの評価を気にしたものであったりすると、厳しい現実にぶつかった時に、簡単に心が折れてしまうかもしれません。
自分自身の内から湧き出る、本物の「誰かのために」という思いや、「この仕事が好きだ」という情熱こそが、長い道のりを歩み続けるための最も大切な原動力になるのです。
【ポイント②】情報収集を徹底し、理想だけでなく現実的なキャリアプランも描く
理学療法士を目指すと決めたら、あるいはまだ迷っている段階だとしても、徹底的な情報収集を心がけましょう。そして、その際には、仕事のやりがいや魅力といった理想的な側面だけでなく、給与水準、労働環境、キャリアパスの現実、業界の将来性といった、シビアな現実についても目を背けずに情報を集め、理解することが非常に重要です。
- 現役理学療法士の声を聞く:可能であれば、実際に病院や施設で働いている理学療法士の方に話を聞く機会(OB/OG訪問、インターンシップ、ボランティアなど)を持ちましょう。仕事のやりがいだけでなく、大変なことや悩みなども率直に聞いてみると良いでしょう。
- 養成校の情報を多角的に集める:パンフレットやウェブサイトだけでなく、オープンキャンパスに参加したり、在学生や卒業生の口コミを調べたりして、教育内容、実習体制、国家試験合格率、就職実績などを比較検討しましょう。
- 業界団体や公的機関の情報を参考にする:日本理学療法士協会や厚生労働省などが公表している統計データや報告書は、業界全体の動向や課題を客観的に把握するのに役立ちます。
- キャリアの多様性を知る:医療機関だけでなく、介護、福祉、スポーツ、教育、研究、企業など、理学療法士が活躍できる様々なフィールドがあることを知り、それぞれの分野での働き方や求められるスキル、将来性などを調べてみましょう。
その上で、「自分は理学療法士として、将来どんな姿になっていたいのか」「そのためには、どんな経験を積み、どんなスキルを磨いていく必要があるのか」といった、具体的なキャリアプランを、理想だけでなく現実的な視点も交えて描いてみることが大切です。
例えば、「将来的にはスポーツ分野で活躍したいけれど、まずは急性期病院で多様な症例を経験したい」とか、「給与面での不安を解消するために、認定資格を取得して専門性を高め、将来的には管理職を目指したい」といった具合です。漠然とした憧れだけでは、道に迷ってしまうかもしれません。
【ポイント③】自分に合った養成校を選び、そこで「学ぶ力」と「人間力」を徹底的に磨く
理学療法士になるための基礎を築く養成校での学びは、非常に重要です。
国家試験に合格することだけを目的とするのではなく、その先にある臨床現場で本当に役立つ知識・技術、そして何よりも、患者さんと真摯に向き合える「人間力」を磨くことを意識しましょう。
- 質の高い教育を受けられる養成校を選ぶ:偏差値や知名度だけでなく、教員の質、カリキュラムの内容、実習先の充実度、国家試験対策の手厚さ、そして卒業生の活躍状況などを総合的に判断して、自分に合った学校を選びましょう。少人数制で丁寧な指導が受けられるか、などもポイントになるかもしれません。
- 基礎医学の知識をしっかりと身につける:解剖学、生理学、運動学といった基礎科目は、理学療法を理解し、実践するための土台となります。地道な勉強ですが、手を抜かずにしっかりと習得しましょう。
- 臨床実習を最大限に活用する:実際の患者さんと接し、指導者の下で理学療法を実践する臨床実習は、知識を技術に結びつける絶好の機会です。積極的に質問し、多くのことを吸収する姿勢で臨みましょう。時には厳しい指導を受けることもあるかもしれませんが、それも成長の糧と捉えましょう。
- コミュニケーション能力を磨く:理学療法士は、患者さんやご家族、そして医師や看護師など多職種と円滑なコミュニケーションを取る能力が不可欠です。授業や実習、アルバイトなどを通じて、相手の話をよく聞き、分かりやすく伝える力を養いましょう。
- 共感力と倫理観を育む:患者さんの痛みや苦しみに寄り添い、その人らしさを尊重する共感力と、医療専門職としての高い倫理観を身につけることが求められます。

養成校時代は、知識や技術だけでなく、人として成長するための大切な期間です。この時期にどれだけ真剣に学び、様々な経験を積むかが、将来の理学療法士としての質を大きく左右すると言っても過言ではありません。
【ポイント④】体力維持とストレスマネジメントの術を身につけ、自己管理能力を高める
理学療法士の仕事は、体力的にも精神的にもタフさが求められます。そのため、日頃から自分の心と体の状態に気を配り、健康を維持し、ストレスを上手にコントロールする術を身につけておくことが非常に重要です。これは、学生時代から意識して取り組むべきことです。
- 適度な運動習慣を続ける:学業や仕事で忙しくても、ウォーキング、ジョギング、筋力トレーニング、ストレッチなど、自分に合った運動を継続的に行い、基礎体力を維持・向上させましょう。
- バランスの取れた食事と十分な睡眠:健康な体は、質の高いリハビリテーションを提供するための資本です。不規則な生活を避け、規則正しい生活習慣を心がけましょう。
- 自分なりのストレス解消法を見つける:趣味の時間を持つ、友人と話す、音楽を聴く、自然に触れる、瞑想するなど、自分がリラックスでき、気分転換になる方法をいくつか持っておくと良いでしょう。
- 感情のコントロール方法を学ぶ:患者さんの辛い状況に共感しつつも、プロとして冷静に対応するためには、自分の感情を客観的に見つめ、適切にコントロールするスキルが必要です。
- オンとオフの切り替えを意識する:仕事のことは職場に置いてくる、休日はしっかりと休むなど、意識的に仕事とプライベートの境界線を引くことで、精神的な疲弊を防ぎやすくなります。
- 困った時には助けを求める勇気を持つ:一人で抱え込まず、同僚や先輩、友人、家族など、信頼できる人に相談したり、必要であれば専門機関(カウンセラーなど)のサポートを受けたりすることも大切です。
特に、臨床現場に出てからは、目の前の患者さんのことで頭がいっぱいになり、自分のことを後回しにしてしまいがちです。しかし、理学療法士自身が心身ともに健康でなければ、質の高いケアを提供し続けることはできません。セルフケアの重要性を常に意識し、自己管理能力を高めていくことが、この仕事を長く、そしてやりがいを持って続けていくための秘訣の一つですよ。
【ポイント⑤】常に学び続ける意欲と、変化に対応できる柔軟性を持つ
医療の世界は絶えず進歩し、理学療法士に求められる役割も時代とともに変化していきます。そのため、資格取得後も、常に新しい知識や技術を学び続ける意欲と、変化に柔軟に対応できる姿勢を持ち続けることが不可欠です。
現状に満足せず、常に自分を高めていこうとする向上心が、プロフェッショナルとしての価値を高めます。
- 生涯学習の意識を持つ:理学療法士としての学びには終わりがありません。学会や研修会への参加、専門書の購読などを通じて、常にアンテナを張り、最新の情報をキャッチアップし続けましょう。
- 専門性を深める努力をする:自分の興味のある分野や、得意な分野を見つけ、認定理学療法士や専門理学療法士などの資格取得を目指したり、大学院でさらに深く研究したりするなど、専門性を高める努力を続けましょう。
- 他職種との連携を深める:医師や看護師だけでなく、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、ソーシャルワーカー、ケアマネージャーなど、様々な専門職と積極的にコミュニケーションを取り、それぞれの専門性を尊重し合うことで、より質の高いチーム医療・チームケアを実現できます。
- 新しい技術や考え方を積極的に取り入れる:AIやロボット技術、遠隔リハビリテーションなど、新しいテクノロジーがリハビリテーションの分野にも導入されつつあります。こうした新しい動きに拒否反応を示すのではなく、積極的に情報を収集し、患者さんのために役立つものであれば取り入れていく柔軟性を持ちましょう。
- 社会の変化に関心を持つ:医療制度や介護保険制度の改正、高齢化の進展、地域包括ケアシステムの推進など、理学療法士を取り巻く社会環境の変化にも関心を持ち、それらが自分の仕事にどのような影響を与えるのかを考える視点も大切です。
「昔取った杵柄」だけでは通用しないのが、医療専門職の厳しい世界です。しかし、見方を変えれば、常に新しいことに挑戦し、自分を成長させ続けることができる、非常に刺激的でやりがいのある環境だとも言えるでしょう。
変化を恐れず、学びを楽しむ姿勢こそが、これからの時代に求められる理学療法士像なのかもしれませんね。
これらのポイントを押さえて、覚悟と準備を持って臨めば、理学療法士という道は、きっとあなたにとって大きな成長と達成感、そして何よりも、多くの人々の笑顔と「ありがとう」に出会える、かけがえのないキャリアをもたらしてくれるはずです。
大切なのは、情報を鵜呑みにせず、自分の頭で考え、自分で決断し、そしてその決断に責任を持つことなんですね。
理学療法士を目指す上での「やめとけ」理由総括
さて、ここまで理学療法士について、「やめとけ」と言われてしまう理由や、それでも理学療法士という道を選ぶ場合に後悔しないための心構えや準備について、詳しくお話ししてきました。
最後に、今回の内容をまとめて、皆さんがこの人の身体と心に深く関わる専門職について考える上で、本当に大切なことは何なのか、おさらいをしておきましょう。
今回の記事でお伝えしてきた、「理学療法士はやめとけ」と一部で言われることがある主な理由は、以下の6点でしたね。
- 理由①:給料が思ったほど上がらず、将来性に不安を感じやすい
専門性の高さや仕事の大変さに見合わないと感じる給与水準や、昇給の頭打ち、供給過多への懸念があります。 - 理由②:体力的な負担が想像以上に大きく、腰痛などに悩まされやすい
移乗介助や長時間の立ち仕事など、身体への負荷が大きく、職業病のリスクも伴います。 - 理由③:精神的なストレスが大きく、燃え尽き症候群になるリスクも
患者さんの期待に応えられない無力感や、死と向き合う辛さ、多職種連携の難しさなど、精神的な負担は大きいです。 - 理由④:キャリアアップの道が限られており、将来の展望が見えにくいことも
管理職ポストの少なさや、業務範囲の限界から、キャリアの停滞を感じる可能性があります。 - 理由⑤:養成校の増加による質の低下や就職難への懸念
教育の質の担保や、将来的な需給バランスの悪化が心配されています。 - 理由⑥:常に学び続ける必要があり、勉強熱心でないと取り残される
医療技術の進歩に追いつくため、資格取得後も絶え間ない自己研鑽が求められます。
これらの理由だけを見ると、「やっぱり理学療法士になるのは、自分には無理かもしれない…」と、自信をなくしてしまうかもしれません。でも、どうか忘れないでください。
これらの厳しい側面は、理学療法士という仕事が、人の人生に深く、そして温かく関わることができる、かけがえのない尊い仕事であることの裏返しでもあるということを。
どんな仕事にも、楽なことばかりではありません。そして、誰かの役に立ちたい、誰かを支えたいという純粋な思いを実現するためには、相応の努力と覚悟、そして時には困難に立ち向かう勇気が必要になるのは、どの道を選んだとしても同じなのかもしれませんね。
理学療法士という道を選ぶか否か、その最終的な判断をする上で最も重要なのは、インターネット上の誰かの「やめとけ」という言葉や、あるいは「素晴らしい仕事だ」という美辞麗句にただ流されるのではなく、
- まず、ご自身が「なぜ理学療法士になりたいのか」「理学療法士になって、どんな人の、どんな力になりたいのか」という、心の奥底から湧き出る「志」と「情熱」を持っているのかを、深く、そして正直に自問自答すること。
- 次に、理学療法士という仕事のやりがいや魅力、そして同時に、その仕事に伴う厳しさや課題、現実的な側面について、信頼できる情報源から多角的に、そして真摯に学ぼうと努めること。
- そして、そこで得た知識と、ご自身の価値観(何を大切にして生きていきたいか)、適性(体力、コミュニケーション能力、忍耐力、学習意欲など)、そして現実的な状況(経済状況、家族の理解など)を冷静に照らし合わせ、本当に自分にとって進むべき道なのか、腹を括って判断すること。
- 最後に、もし挑戦すると決めたならば、その決断に誇りと責任を持ち、あらゆる困難を乗り越える覚悟と、それを支える周到な準備(質の高い学習、心身の健康管理、人間関係の構築など)を持って、ひたむきに努力を続けること。
これらのステップを一つひとつ真摯に踏んでいくことが、後悔のない選択をするための、そして、もし理学療法士という道を選んだ場合に、その道を誇りを持って歩んでいくための、何よりの力になるのだと、私は信じています。
理学療法士は、確かに簡単な仕事ではありません。しかし、患者さんが少しずつでも出来ることが増えていく喜びを共に分かち合い、その方の人生がより豊かになるお手伝いができるという経験は、何物にも代えがたい、大きな感動とやりがいを与えてくれるはずです。
「やめとけ」という言葉は、時に私たちを臆病にさせ、一歩踏み出す勇気を奪ってしまうことがあります。しかし、その言葉の裏にある「なぜ?」を深く掘り下げ、そのリスクや課題を理解した上で、「それでも自分はこの道で、誰かのために力を尽くしたい」と心から思えるのであれば、その声はもはや障害ではなく、むしろより慎重に、より賢明に準備を進めるための貴重な警鐘へと変わるのではないでしょうか。
この記事が、皆さんの理学療法士という職業に対する理解を少しでも深め、そして何よりも、皆さんお一人おひとりが、ご自身の未来について真剣に考え、後悔のない決断をするための一助となれたなら、これほど嬉しいことはありません。皆さんの温かい心が、誰かの未来を照らす光となることを、心から応援しています!