「固定残業代(みなし残業代)」…この言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持たれますか?「毎月一定額の残業代がもらえるなら安心!」「残業が少なくても給料が変わらないならラッキー!」といった、なんだかお得な制度のように感じるかもしれませんね。特に、就職活動中の学生さんや、転職を考えている社会人の方にとっては、求人票で見かけることも多く、給与条件の一つとして気になる存在なのではないでしょうか。
でも、ちょっと待ってください。インターネットで「固定残業代」と検索すると、「やめとけ」「ブラック企業」「ただ働き」「違法?」といった、かなりネガティブで心配になるような言葉もたくさん出てきます。「本当に残業代がきちんと支払われるの?」「長時間労働を強いられるだけじゃないの?」と、不安に思うのは当然のことですよね。
実は、一見すると従業員にもメリットがありそうに見える固定残業代制度にも、知っておかなければならない多くの落とし穴や、悪用されやすい危険性が隠されていることがあるんです。この記事では、固定残業代制度のある会社への就職や転職を考えている皆さんが、後で「こんなはずじゃなかった…」と大きな後悔をしないために、その仕組みや注意すべき点を、分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
この記事でお伝えしたいこと
- 固定残業代(みなし残業代)制度の基本的な仕組みと、その目的
- 固定残業代制度のメリット(と言われていること)と、企業側の導入理由
- なぜ「固定残業代はやめとけ」と言われることがあるのか?具体的な7つの理由
- もし固定残業代制度のある会社で働く場合に、確認すべきポイントと対処法
- 「固定残業代」という言葉に惑わされず、賢く労働条件を見極めるためのヒント
固定残業代(みなし残業代)とは?まずは基本的な仕組みを正しく理解しましょう
まずはじめに、「固定残業代(みなし残業代)」とは一体どのような制度なのか、その基本的な仕組みや法的な位置づけについて、一緒に見ていきましょう。制度の正しい理解が、不当な扱いやトラブルを避けるための第一歩になりますからね。
固定残業代制度の基本的な仕組み:「あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含める」
固定残業代制度とは、実際の残業時間に関わらず、あらかじめ一定時間分の残業に対する割増賃金(残業代)を、毎月の給与の中に固定額として含めて支払う制度のことです。「みなし残業代」と呼ばれることもありますが、労働基準法上は「固定残業代」という方がより正確な表現と言えるでしょう。
例えば、「月給30万円(固定残業代45時間分、7万円を含む)」といった形で求人票や雇用契約書に記載されます。この場合、毎月45時間分の残業代として7万円が、実際の残業時間にかかわらず支払われる、ということになります。
この制度を導入する目的は、企業側にとっては、毎月の残業代計算の事務作業を簡略化したり、人件費の予算管理をしやすくしたりするといった点が挙げられます。従業員側にとっては、残業時間が少なくても一定額の残業代が保証される、というメリットがあると言われることもあります(ただし、これには注意が必要です)。
重要なのは、固定残業代制度が法的に有効であるためには、いくつかの厳格な要件を満たしている必要があるということです。この点を理解していないと、不利益を被る可能性があります。
固定残業代制度が法的に有効となるための要件
固定残業代制度が、労働基準法に違反せず、法的に有効なものとして認められるためには、判例などによって以下のようないくつかの要件が示されています。これらが満たされていない場合、その固定残業代制度は無効と判断される可能性があります。
- 固定残業代と基本給部分が明確に区別されていること:雇用契約書や給与明細において、固定残業代がいくらで、それが何時間分の残業に相当するのか、そして基本給がいくらなのかが、明確に分けて記載されている必要があります。「月給〇〇万円(残業代込み)」といった曖昧な記載はNGです。
- 固定残業時間に相当する金額が、法定の割増率で計算された残業代以上であること:固定残業代として支払われる金額が、その固定残業時間に対して労働基準法で定められた割増率(通常は1.25倍、深夜労働や休日労働はさらに割増)で計算した金額を下回っていてはいけません。
- 固定残業時間を超えた場合は、その超過分の残業代が別途支払われること:これが最も重要なポイントの一つです。固定残業代は、あくまで「あらかじめ定められた時間分の残業代の前払い」であり、「それ以上はいくら残業しても残業代は出ない」という意味ではありません。もし、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合は、その超過分について、別途、法定通りの割増賃金が支払われなければなりません。
- 固定残業代制度について、従業員に周知・合意がなされていること:就業規則や雇用契約書に明記され、従業員がその内容を理解し、合意している必要があります。

これらの要件が満たされていない固定残業代制度は、実質的に「残業代を支払わないための隠れ蓑」として利用されている可能性があり、注意が必要です。(参考:厚生労働省 「固定残業代」に関するリーフレット」)
固定残業代制度のメリット(と言われていること)と企業側の導入理由
では、なぜ企業は固定残業代制度を導入し、そして従業員側にはどのようなメリットがあると言われているのでしょうか。
企業側の主な導入理由・メリット:
- 残業代計算の事務負担軽減:毎月の残業時間を細かく計算し、それに基づいて割増賃金を算出する手間を省くことができます。
- 人件費の予算管理の容易化:毎月支払う残業代の総額がある程度固定されるため、人件費の変動を抑え、予算計画を立てやすくなります。
- 求人時の見かけの給与額アップ:基本給に固定残業代を上乗せすることで、月給の総額を高く見せることができ、求職者へのアピールに繋がる場合があります。
- 従業員の生産性向上への期待(理論上):残業時間が少なくても固定残業代がもらえるなら、従業員が効率的に仕事をして早く帰ろうとするインセンティブが働く…という期待(ただし、現実はそう単純ではありません)。
従業員側の主なメリット(と言われていること):
- 残業時間が少なくても一定額の残業代がもらえる:実際の残業時間が、固定残業時間よりも短かった場合でも、定められた固定残業代が満額支払われます。
- 毎月の収入が安定しやすい:残業時間の変動による給与のブレが少なくなり、収入の見通しが立てやすくなります。
これらのメリットは、あくまで制度が適切に運用されている場合に限ります。実際には、デメリットや問題点の方が大きくクローズアップされることが多いのが実情です。
それでも「固定残業代はやめとけ」と言われる7つの厳しい現実と落とし穴
さて、ここからが本題です。適切に運用されれば従業員にもメリットがありそうに見える固定残業代制度ですが、なぜ「やめとけ」という声がこれほどまでに多く聞かれるのでしょうか。その裏に潜む厳しい現実や、悪用されやすい落とし穴を7つにまとめてみました。
【理由①】「ただ働き」の温床!固定時間を超える残業代が支払われないケース
固定残業代制度の最も深刻な問題点であり、「やめとけ」と言われる最大の理由が、これです。本来、固定残業代は、あらかじめ定められた時間分の残業代を前払いするものであり、実際の残業時間がその固定時間を超えた場合には、その超過分について別途、法定通りの割増賃金が支払われなければなりません。
しかし、悪質な企業の中には、このルールを無視し、「固定残業代を払っているのだから、いくら残業させても追加の残業代は支払わない」という誤った運用をしているケースが後を絶ちません。その結果、従業員は固定残業時間を大幅に超える長時間労働を強いられながら、その超過分については一切残業代が支払われない、いわゆる「サービス残業」「ただ働き」の状態に陥ってしまうのです。
例えば、固定残業時間が45時間と設定されていても、実際には毎月80時間、100時間といった残業をしているにもかかわらず、追加の残業代が全く支払われない…といった事態です。これは、明らかな労働基準法違反であり、従業員にとっては心身ともに大きな負担となります。

「固定残業代=残業代は定額で使い放題」という誤った認識を持つ経営者や管理職がいる限り、この問題はなくならないでしょう。
【理由②】基本給が不当に低く抑えられている可能性!見かけの給与額にご用心
求人票で「月給30万円(固定残業代7万円含む)」と書かれていると、一見すると給与水準が高く見えるかもしれません。しかし、よく見てみると、基本給は23万円で、残りの7万円が固定残業代だった、というケースがあります。
問題なのは、この基本給23万円が、その地域の同業種・同職種の相場や、本人のスキル・経験に見合わないほど不当に低く設定されている場合です。企業側は、固定残業代を上乗せすることで、あたかも高い給与を支払っているかのように見せかけ、求職者を集めようとしている可能性があるのです。
基本給が低いと、以下のようなデメリットが生じます。
- 賞与(ボーナス)の算定基礎額が低くなる:多くの企業では、賞与は「基本給の〇ヶ月分」という形で計算されるため、基本給が低いと賞与額も少なくなります。
- 退職金の算定基礎額が低くなる:退職金制度がある場合、その算定基礎も基本給となることが多いため、将来受け取る退職金が少なくなる可能性があります。
- 時間外労働の割増賃金の単価が低くなる:固定残業時間を超えた場合の追加の残業代や、深夜労働・休日労働の割増賃金は、基本給を基に計算されるため、その単価も低くなってしまいます。
固定残業代を除いた「基本給」がいくらなのか、そしてそれが適正な水準なのかを、冷静に見極める必要があります。「総支給額」の高さだけに目を奪われないように注意しましょう。
【理由③】長時間労働の常態化!「固定時間までは残業して当たり前」の空気
固定残業代制度を導入している企業の中には、残念ながら、「固定残業時間までは残業するのが当たり前」「固定残業時間分は働かせないと損だ」といった誤った考え方を持つ経営者や管理職がいる場合があります。
その結果、実際にはそれほど残業する必要がない業務量であっても、固定残業時間に達するまで、ダラダラと会社に残って仕事をすることを強要されたり、あるいはそのような無言のプレッシャーを感じたりするケースが出てきます。「定時で帰ろうとすると、上司や同僚から白い目で見られる…」なんていう職場環境では、心身ともに疲弊してしまいますよね。
本来、固定残業代は、あくまで「残業が発生した場合に備えた前払い」であり、必ずしもその時間分の残業をしなければならない、あるいはさせなければならない、という意味ではありません。しかし、この制度が悪用されると、結果的に長時間労働を助長し、従業員のワークライフバランスを著しく損なう原因となるのです。
「固定残業代が含まれているから、残業は当然」という雰囲気が蔓延している職場は、要注意と言えるでしょう。生産性の向上とは真逆の方向に向かっている可能性があります。
【理由④】制度の分かりにくさと説明不足!気づかぬうちに不利益を被る
固定残業代制度は、その仕組み自体が複雑で分かりにくく、労働者にとって理解しづらいという側面があります。そして、企業側も、その制度内容について、従業員に対して十分な説明をしていないケースが少なくありません。
例えば、
- 求人票や雇用契約書に、固定残業代の金額や相当する時間数が明記されていない、あるいは非常に分かりにくい場所に小さく書かれている。
- 固定残業時間を超えた場合に、追加の残業代が支払われるというルールが周知されていない。
- 基本給と固定残業代の内訳が、給与明細にきちんと記載されていない。
- 「うちは年俸制だから残業代は出ないよ」といった、誤った説明をされる。
といった状況です。こうした情報不足や説明不足の結果、従業員は、自分がどのような労働条件で働いているのかを正確に把握できないまま、知らず知らずのうちに不利益を被ってしまう可能性があります。特に、社会経験の浅い若い世代や、労働法規に詳しくない人は、疑問を感じても「そういうものなのかな」と受け入れてしまいがちです。
労働契約は、使用者と労働者が対等な立場で締結されるべきものです。制度内容について不明な点があれば、遠慮なく会社側に説明を求め、納得できるまで確認する姿勢が大切です。曖昧な説明しかしないような会社は、信頼できないと考えた方が良いかもしれませんね。
【理由⑤】実際の残業時間と固定時間の乖離!「お得感」は最初だけ?
「残業が少なくても固定残業代がもらえるならお得!」…そう考える方もいるかもしれません。確かに、入社したばかりの頃や、業務量が比較的少ない時期には、実際の残業時間が固定残業時間よりも短く、その差額分だけ「得した」と感じることもあるでしょう。
しかし、多くの場合、仕事に慣れてきたり、責任のある業務を任されるようになったりすると、実際の残業時間は徐々に増えていき、あっという間に固定残業時間を超えてしまう…というケースが珍しくありません。そうなると、もはや「お得感」は消え去り、むしろ「固定時間まではタダ働きさせられている」という不満だけが残ることになります。
企業側も、従業員の能力や業務量を考慮して、固定残業時間を設定しているはずです(そうでないと人件費が無駄になりますから)。つまり、長期的には、多くの従業員が固定残業時間に近い、あるいはそれを超える残業をすることを見越して制度設計されている可能性が高いのです。
「最初は楽だったけど、だんだんサービス残業が増えてきた…」というのは、固定残業代制度のある会社でよく聞かれる話です。目先の「お得感」だけで判断せず、長期的な視点で、自分の働き方や残業時間の実態がどうなるのかを冷静に考える必要がありますね。
【理由⑥】深夜・休日労働の割増賃金が曖昧にされる危険性
労働基準法では、通常の時間外労働(法定労働時間を超える労働)に対しては2割5分以上の割増賃金を支払うことが義務付けられていますが、それとは別に、深夜労働(原則として午後10時から午前5時までの労働)に対してはさらに2割5分以上、休日労働(法定休日の労働)に対しては3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
固定残業代制度を導入している場合でも、この深夜労働や休日労働に対する割増賃金は、固定残業代とは別に、きちんと計算して支払われなければなりません。しかし、悪質な企業の中には、「固定残業代の中に、深夜手当や休日手当も含まれている」といった、誤った解釈や説明をして、これらの割増賃金を支払わないケースがあります。
例えば、固定残業代が「45時間分の時間外手当」として設定されている場合、それはあくまで「通常の時間外労働」に対するものであり、もしその45時間の中に深夜労働や休日労働が含まれていたとしても、その分の割増率は別途上乗せして計算されなければならないのです(あるいは、固定残業代の内訳として、深夜・休日割増分が明確に区分されている必要があります)。
求人票や雇用契約書で、「固定残業代には、深夜労働〇時間分、休日労働〇時間分を含む」といった具体的な記載がない場合は、深夜手当や休日手当が正しく支払われるのかどうか、必ず確認するようにしましょう。曖昧なままにしておくと、知らず知らずのうちに損をしてしまう可能性があります。
【理由⑦】求人時の魅力的な給与額の裏に潜む「残業ありき」の働き方
前述の通り、企業が固定残業代制度を導入する理由の一つに、「求人時の見かけの給与額を高く見せる」というものがあります。例えば、基本給20万円の会社が、固定残業代5万円(約30時間分と仮定)を上乗せして「月給25万円!」とアピールするようなケースです。
一見すると魅力的な給与額に見えますが、これは裏を返せば、「毎月30時間程度の残業をすることが、ほぼ前提となっている働き方ですよ」というメッセージでもあるのです。もし、残業がほとんどない会社であれば、わざわざ高額な固定残業代を設定する必要はありませんよね。
つまり、高い固定残業代が設定されている求人ほど、「入社したら、長時間労働が待っている可能性が高い」と警戒する必要があるのです。「給料が良いから」という理由だけで飛びつくと、入社後に「こんなに残業が多いとは思わなかった…」と後悔することになりかねません。
もちろん、仕事内容や業界によっては、ある程度の残業はやむを得ない場合もあるでしょう。しかし、それが常態化し、心身の健康を害するほどの長時間労働に繋がるのであれば、それは問題です。固定残業代の金額だけでなく、それが何時間分の残業に相当するのか、そしてその会社の平均的な残業時間はどれくらいなのかを、できる限り事前に調べておくことが大切です。
それでも固定残業代制度のある会社で働くなら…後悔しないための確認ポイントと対処法
ここまで固定残業代制度の危険性やデメリットをこれでもかというほどお伝えしてきましたが、「それでも、この会社で働きたい!」「魅力的な仕事内容だから、固定残業代があっても挑戦したい」という方もいらっしゃると思います。もちろん、全ての固定残業代制度が悪用されているわけではありませんし、適切に運用されていれば、従業員にとってもメリットがある場合もあります。
ここでは、もし固定残業代制度のある会社で働くことを選択する場合に、後で後悔しないために、必ず確認すべきポイントや、万が一の時のための対処法についてお話ししますね。
求人票・雇用契約書の徹底チェック!「明確な区分」と「超過分支給」の記載
まず何よりも大切なのは、求人票や、内定後であれば雇用契約書(労働条件通知書)の内容を、隅々まで徹底的に確認することです。特に、固定残業代に関する記載は、一言一句見逃さないように注意しましょう。
以下の点が、明確に記載されているかを確認してください。
- 基本給の金額
- 固定残業代の金額
- 固定残業代が、何時間分の時間外労働に相当するのか(時間数)
- 固定残業代の算定根拠(通常の時間外割増か、深夜・休日割増を含むのかなど)
- 固定残業時間を超えた場合には、その超過分について別途割増賃金が支払われる旨の記載
これらの記載が曖昧だったり、そもそも固定残業代に関する詳細な説明がなかったりする場合は、その会社は労働法規に対する意識が低いか、あるいは意図的に情報を隠している可能性があります。非常に危険な兆候と言えるでしょう。

もし、記載内容に不明な点や疑問点があれば、入社前に必ず人事担当者などに質問し、書面で回答をもらうようにしましょう。口頭での説明だけでは、後で「言った、言わない」のトラブルになる可能性があります。
実際の残業時間と給与明細の照合!「ただ働き」になっていないか
もし固定残業代制度のある会社に入社したら、自分自身の実際の労働時間を正確に記録し、毎月の給与明細と照らし合わせて、残業代が正しく支払われているかを確認する習慣をつけましょう。
- 労働時間の記録:タイムカードのコピー、業務日報、パソコンのログイン・ログオフ記録、メールの送信履歴など、客観的な証拠となるものをできるだけ残しておきましょう。スマートフォンのGPS記録や、手書きのメモでも、補助的な証拠にはなり得ます。
- 給与明細の確認:基本給、固定残業代、そしてもし固定残業時間を超えた場合はその超過分の残業代が、それぞれ明確に区分されて記載されているか、金額に間違いはないかを確認します。
もし、固定残業時間を超える残業をしているにもかかわらず、超過分の残業代が支払われていなかったり、あるいは給与明細の記載が曖昧だったりした場合は、まずは勇気を出して、上司や人事・経理担当者に確認・相談しましょう。単なる計算ミスや誤解である可能性もあります。
それでも改善されない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することも検討する必要があります。「おかしいな」と感じたら、決して泣き寝入りしないことが大切です。
「固定時間まで残業するのが当たり前」という雰囲気なら要注意!
入社後、職場の雰囲気として、「固定残業時間までは、特に仕事がなくても残業するのが当然」といったプレッシャーを感じるようであれば、それは危険な兆候です。そのような職場では、長時間労働が常態化しやすく、生産性も低下し、心身ともに疲弊してしまう可能性が高くなります。
もし、上司や先輩から、「まだ固定時間まで時間があるじゃないか」「みんな残っているんだから、お前も残れよ」といった発言があったり、定時で帰ろうとすると嫌な顔をされたりするようであれば、その職場の労働環境には問題があると言わざるを得ません。
このような状況に陥った場合は、一人で抱え込まず、信頼できる同僚や、社内の相談窓口(もしあれば)、あるいは外部の労働相談機関などに相談することを考えてみましょう。自分の健康と権利を守るためには、時には毅然とした態度も必要です。
不当な扱いを受けたと感じたら、証拠を集めて専門機関に相談
もし、固定残業代制度に関して、会社から不当な扱い(例えば、超過分の残業代が支払われない、基本給が不当に低い、制度内容の説明が虚偽だったなど)を受けていると感じた場合は、諦めずに、まずは客観的な証拠を集めることが重要です。
前述したような、労働時間の記録、給与明細、雇用契約書、就業規則、上司とのやり取りのメールや録音などが、有効な証拠となり得ます。
その上で、
- 労働基準監督署:労働基準法違反の疑いがある場合に、行政指導や是正勧告を行ってくれる可能性があります。相談は無料です。
- 弁護士(労働問題に詳しい):未払い残業代の請求や、労働契約の無効などを求める場合に、法的なアドバイスや代理交渉、訴訟手続きなどを行ってくれます。初回相談無料の法律事務所もあります。
- 労働組合(社内または社外の合同労組):会社との団体交渉を通じて、労働条件の改善を求めることができます。
といった専門機関に相談することを検討しましょう。一人で悩んでいても解決しないことが多いです。専門家の力を借りることで、道が開ける可能性があります。
「会社と揉めたくない」「面倒なことになりたくない」という気持ちも分かりますが、自分の正当な権利を主張することは、決して悪いことではありません。勇気を持って一歩踏み出すことが、状況を改善するきっかけになるかもしれませんよ。
「固定残業代はやめとけ」と言われる理由の総括と賢明な判断のために
さて、ここまで固定残業代(みなし残業代)制度について、その仕組みとメリット(と言われるもの)、そして「やめとけ」と言われるほどの厳しい現実や注意すべき点について詳しくお話ししてきました。最後に、この記事でお伝えした大切なポイントをまとめておさらいしましょう。
固定残業代制度は、適切に運用されれば、企業にとっては事務負担の軽減、従業員にとっては収入の安定化といったメリットがある一方で、その仕組みの分かりにくさや、企業側の都合の良いように悪用されやすいという大きな危険性を孕んでいます。「固定残業代=残業代は定額で使い放題」という誤った認識が、長時間労働やサービス残業の温床となり、多くの労働者を苦しめているのが実情です。「給料が高いから」「残業が少なくてもお得だから」という表面的な情報だけで判断するのは非常に危険です。
「やめとけ」という言葉は少し強いかもしれませんが、それは「何も知らずに、制度の危険性を理解せずに、安易に固定残業代のある会社を選ぶのはやめとけ」「自分の労働条件をしっかり確認せずに、不利益を被る可能性を見過ごすのは危険だ」という、労働者を守るための重要な警告だと捉えていただければと思います。
「固定残業代はやめとけ」と言われる、その主な理由(デメリットやリスク)の再確認です。
- 固定残業時間を超える残業代が支払われず、「ただ働き」やサービス残業の温床になりやすいこと。
- 基本給が不当に低く抑えられ、賞与や退職金、時間外手当の単価が低くなる可能性。
- 「固定時間までは残業して当たり前」という雰囲気が生まれ、長時間労働が常態化しやすいこと。
- 制度の仕組みが分かりにくく、会社からの説明も不十分で、気づかぬうちに不利益を被る危険性。
- 入社当初は得に感じても、結局は固定時間を超える残業が常態化し、お得感がなくなる可能性。
- 深夜労働や休日労働に対する割増賃金が、固定残業代の中に曖昧にされて支払われない危険性。
- 求人時の魅力的な給与額の裏に、「残業ありき」の厳しい働き方が隠されている可能性。
それでも固定残業代制度のある会社で働くことを検討するなら、これらの確認ポイントと対処法を忘れないでください。
- 求人票や雇用契約書を徹底的にチェックし、基本給、固定残業代の金額と時間数、超過分支給の有無などを明確に確認する。
- 入社後は、自分自身の実際の労働時間を正確に記録し、毎月の給与明細と照らし合わせて、残業代が正しく支払われているかを確認する。
- 「固定時間まで残業するのが当たり前」という職場の雰囲気を感じたら、長時間労働の常態化を警戒し、必要であれば声を上げる。
- もし不当な扱い(未払い残業代など)を受けていると感じたら、労働時間の記録などの証拠を集め、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談する。
最終的にどのような労働条件の会社を選ぶかを決めるのは、他の誰でもない、あなた自身です。この記事でお伝えした情報が、皆さんが固定残業代制度について正しく理解し、ご自身の権利を守り、後悔のない賢明な就職・転職活動をするための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
どうぞ、じっくりと考え、情報を吟味し、そして自分にとってより良い労働環境を選び取ってくださいね。応援しています。